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日経産業新聞
1999年11月22日

「よろず相談お任せを」
総合経済法律事務所旗揚げ
弁護士・税理士・司法書士が結集

日本初の「総合経済法律事務所」が誕生した。弁護士・税理士.司法書士らが集まり、登記から債権回収、税務・法律問題までを一手に引き受ける狙いだ。 中小「士族」事務所の経営統合の試みを探った。(三宅伸吾)

先月二十四日、神奈川県厚木市で、ゴルフコンペを兼ねた異業種交流会が開かれた。出席者は約60人。中小企業経営者や大手企業の幹部らで、 弁護士事務所の清水総合法律事務所(東京・千代田)、早勢要税理士事務所(同)、山田司法書士・土地家屋調査士事務所(横浜市)山田サービサー総合事務所(同)の顧客だ。 主催者はこれらの事務所が今春、事実上、経営統合して生まれた「コモンパートナーズ」(東京・千代田)。その旗揚げ記念を名目に、依頼者の人脈拡大支援を狙って、 交流会「第一回コモンパートナーズ・ゴルフコンペ」を開いた。

日本発の経営統合
「一つの事務所で顧客のすべての要望にこたえるようにしたかった。」--。 経営統合の理由を、パートナーズ代表者の一人、清水紀代志弁護士(59)はこう説明する。 東京の有楽町駅近くにあるパートナーズのオフィスには総勢三十一人のスタッフがいる。内訳は司法書士二人、土地家屋調査士一人、弁護士五人、税理士二人、 債権回収担当者が一人と、これら専門家の補助者たち。弁護士と会計士、弁護士と税理士などがオフィスを共有している事務所は少なくないが、 パートナーズのように幅広い専門家が集まった事務所は日本では初めてだという。 こんな場合に総合事務所は、威力を発揮する。取引先が倒産した場合、企業は様々な問題を抱える。税務問題をどう処理するのか、債権回収の手法はどうか--。 一つの事務所で関連する案件全ての助言が得られれば便利だ。 こんな時にも助かる。パートナーズは、住宅メーカーの営業担当者からこう喜ばれているという。「住宅の施主は幅広い悩みを問いかけてくる。登記だけでなく、 税金、法律問題でもこの事務所なら一挙に片が付く」。

顧客同士の人脈拡大
また経営統合により顧客の相互紹介がスムーズになり、営業基盤が一気に広がる。さらに顧客の人脈拡大にも貢献できる。 先月のゴルフコンペでも、依頼者同士で事業の結びつきが広がるように組み合わせに腐心したほか、ひと汗流した後の懇談会では参加者の会社概況などを丁寧に説明、 参加者たちがお互いに名刺を交換する姿があちこちで見られたという。 ただ経営改革はまだ道半ば。というのは現在の法律では弁護士、税理士、司法書士、債権回収業者らが合併して、会社組織を作ることは許されていない。 このためパートナーズも任意の名称で、事務所の受け付けにもこの名前では看板を出せない。法律上では山田サービサー総合事務所(横浜市)東京支店、弁護士、 司法書士、税理士らの事務所がオフィスを物理的に共有しているという形だ。請求書も同じ相手先なのにそれぞれの事務所で出すほかない。 経営陣も現在はそれぞれの事務所の代表者である、清水弁護士、早勢要税理士(51)と、サービサー事務所の代表も務める山田晃久司法書士(53)の三人による 「三頭政治」だ。毎月一回、三人が集まる「経営者会議」で基本戦略を固める。 こうした課題は残るものの経営統合の結果、「大量の処理が可能になり、安いサービスが供給できるようにもなる」(清水弁護士ら) という。 これまで日本の法律関連の専門事務所は会計事務所を除いて小規模経営でやってきた。ただ短期間に大量の仕事量が必要な企業の合併や買収案件などに対応するため、 弁護士事務所ではようやく大型化の兆しが出ており、来年一月には合併により百人規模の弁護士事務所も誕生する。 同一資格内での規模のメリットを追う生き残り策もある一方で、別の道を選んだのがパートナーズだ。「異業種で統合をしてそれぞれの専門家のエネルギーを結集するほうが得策だ」 と山田氏らは判断したと話す。

規制緩和論議に一石
日本の「資格業」はいわば護送船団方式でもあった。事業者の数を需給調整するだけでなく、 自主基準などで安さをPRする広告宣伝を禁止している例さえある。 また弁護士、司法書士、税理士事務所などは支店開設もできないなど、利用者を無視したような慣行や法律が数多く残る。 典型的な規制業界だが 、ここにも大競争時代が訪れようとしている。司法試験改革で来年には合計千三百人前後の弁護士が誕生、「市場」に参入してくる。 また七月に発足した政府の司法制度改革審議会では今後、「総合経済法律事務所」を法律上、正面から認める方向で議論が進む模様だ。法制化されればコモンパートナーズ は第一号申請をめざす計画という。 長引く不況の中、「会社数は減り、事務所運営できない仲間も出始めた。生き残るには経営革新しかない」(早勢税理士ら)と、「資格業」の一大異業種提携に先鞭を つけたパートナーズ。その動きを全国の「士族」が見守る。

注)表記その他は取材当時のものです。 また、取材記事をそのまま掲載しております。